山口瞳『青雲の志についてー鳥井信治郎伝ー』
この本は、1969年にサントリーの社史の第1分冊として出版された。原題は『やってみなはれ』。サブタイトルが示すように、サントリーの創業者である鳥井信治郎の伝記である。鳥井信治郎の長男鳥井吉太郎(1931年)、平井鮮一(1932年)、作田耕三(1928年)、山崎隆夫(1930年)等の神戸高商卒業生が実名で出てくる。山口瞳が入社した1958年当時、平井鮮一は宣伝部担当常務、山崎隆夫は宣伝部長と直属の上司であった。
山口瞳の宣伝部の同僚には、開高健、柳原良平がいた。また、上司の山崎隆夫は、元銀行マン。そしてプロの腕前を持つ画家で国画会会員という異色の人物である。サントリー取締役、関連会社のサンアド社長をつとめ、サラリーマン生活を”卒業”した後は専業の画家となり人生を送った。東京、大阪の凌霜クラブには山崎画伯の油絵が掲示されている。
なお、今年になって刊行された昭和30年代のサントリー(旧社名壽屋)が刊行していた雑誌「洋酒天国」に焦点を当てた小玉武著『「洋酒天国」とその時代』(筑摩書房、2400円+税)にも、山崎隆夫の名が、ところどころに出てきている。
「 相模湾落日 」山崎 隆夫 作 1990(平成2)年作、油彩・板、90.9×90.9cm

茅ヶ崎市立美術館ホームページ http://www.chigasaki-arts.jp/museum/picture_2006/03.html から
ハンス・ニックリッシュ著『パパにはかなわない』
ドイツのユーモア小説。著者の父はドイツの著名な経営学者で多くの日本の経営学者に影響を与えた。『パパにはかなわない』の一家は、ハンスの少年時代の体験が織り込まれている。この物語には日本人のワタナベという人物がでてくるが、ワタナベのモデルとなったのは、戦前にニックリッシュの研究室で学んでいた平井泰太郎である。平井泰太郎は、神戸高商を経て東京高商専攻部を卒業。母校の神戸高商で経営学を講じた。戦後、新制神戸大学が発足時に日本で最初の経営学部を創設する。また、神戸大学から経営学博士第1号を授与された。『パパにはかなわない』が1961年に筑摩書房から世界ユーモア文学全集の1冊として翻訳出版された際の「月報」に平井泰太郎が戦前のニックリッシュ一家の思いでを寄稿している。
【読書ガイド】
山口瞳『青雲の志についてー鳥井信治郎伝ー』(1981年、集英社文庫)
小玉武著『「洋酒天国」とその時代』(2007年、筑摩書房)
ハンス・ニックリッシュ著『パパにはかなわない』(1961年、筑摩書房、「世界ユーモア全集12」所収)
作成:神戸学術事業会
【連載読物】文学作品と神戸大学(4)は、次週以降に掲載されます。
|