賀川豊彦(かがわ・とよひこ、1888―1960)は、神戸市生まれのキリスト教社会運動家。その賀川豊彦の英文著作”Brotherhood Economics”(London1937)が、約70年後に初めて翻訳された。タイトルは『友愛の政治経済学』、野尻武敏名誉教授(経)が監修、翻訳者は加山久夫(賀川豊彦記念松沢資料館館長・明治学院大学名誉教授)・石部公男(聖学院大学教授)の両氏である。日本生活協同組合連合会出版部が発行、コープ出版が発売元となっている。定価は1800円+税。
1936年、賀川豊彦は米国のコールゲイト・ロチェスター神学校のラウシェンブッシュ基金に招かれ、「キリスト教的友愛と経済再建」(Christian Brotherhood and Economic Reconstruction)の表題で4回にわたって講演を行った。本書は、その内容を収録したものである。最初は同年、同基金の助成でニューヨークのHarper & Brothers社から出版された。翻訳するに当たっては、翌年ロンドンで出版された1937年版を底本としている。ロンドン版で、若干の手直しが加えられているためである。なお、本書(原著)は、発売当時世界各国で話題を呼び25カ国、17言語に訳されたという。オーストリアでは、ドイツ語だけでなくエスペラント訳までが出たそうだ(訳者あとがき)。
賀川は、幼年期に両親と死別。徳島中学4年のとき洗礼を受ける。明治学院高等部神学予科2年修了後、神戸神学校に転校、1911年(明治44)に卒業した。在学中から伝道に従事、1909年21歳のときから神戸市葺合の貧民窟に住み込み、妻はる(1913年結婚)とともに貧民救済にあたった。今年は、「賀川豊彦献身100年」にあたり様々な記念事業が執り行われてきたが、本書の刊行もその一環である。
本書にはキリスト教に基づく友愛精神と、その展開としての協同組合(保険、生産者、販売、信用等)を説き、更に協同組合国家や友愛に基づく世界平和を論じている。監修者の野尻名誉教授(コープこうべ共同学苑学苑長)は、本書の今日的意味として、次の2点を指摘している(監修者まえがき)。
・第1に、昨秋来の米国発の金融危機のなかで大恐慌の再来が危惧されている今日の世界状況には、本書が世に出た賀川の時代となにか似たものが存在する。人々が「欠乏のゆえにではなく、過剰のゆえに苦しんでいる」資本主義社会の矛盾の指摘(本書19頁)をはじめ、賀川の資本主義批判には、今日なおも再考に値するものも少なくない。
・第2に、賀川の時代と今日の大きな違いの一つは、第2次世界大戦と戦後の米ソ二極対立を通して、賀川の予言通りにファシズムも共産主義も崩れ去り、先進社会は「あれかこれか」ではなく、「あれもこれも」の時代、つまり市場基調の混合体制の時代に入ってきたことにある。

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